Dub Clashのこと。

On 2010年12月20日, in 音楽, by dubbrock

オーバーヒート主催のイヴェント、Dub Clashに行ってきました。

ライブに先立って、RIDDIM誌にこのような原稿を書かせていただいた。

レゲエという音楽が、なぜこれほど魅力的なラフでタフな音楽なのかを考えるとき、レゲエそのものが辿ってきた道を 振り返ると納得がいく。ジャマイカは経済的には決して豊かな国ではないけれども、彼の国の人たちは、創意工夫を持ってして楽しむ術を知っている。レゲエと いう音楽はそのジャマイカ人のクリエイティヴィティを見事に表しているといっていい。同じリズム・トラックを複数のアーティストが使い回す、リズム・ト ラックをリメイクする、ポータブル・シンセのプリセット・リズムをそのままリズム・トラックとして使ってしまう、イフェクトや音の抜き差しで違う曲に作り 替える(ダブ)…といったことはジャマイカのレコーディングから生まれたことだ。

ダンスの現場では、レゲエを魅力的に聴かせるための大口径スピーカーを伴うサウンド・システムの存在はもちろんのこと、ヴァージョン(カラオケ)にのせて 即興で歌ったりDJしたり、一点もののスペシャルで競い合ったり…と、ジャマイカならではの音楽文化を生み出してきた。ジャマイカが生み出したもの は、ジャマイカにとどまらず、今や世界標準となっているものも少なくない。それは、ダブやリミックスという言葉が音楽ファンの日常語となっていることから もおわかりだろう。

さて今回、30周年を迎えるオーバーヒートが開催するイベントが、Dub Clashだ。ルーツ・ラディックスのスタイル・スコットというジャマイカを代表するドラマーと、ミュート・ビートの松永孝義という日本を代表するベーシ ストを軸に、レゲエという音楽に魅せられ、長年レゲエと向き合ってきた日本のミュージシャン達が加わる。それを、ブルワッキーことロイド・バーンズと Dub Master Xという2人のダブ・エンジニアがダブ・ミックスで競うという企画だ。レコーディングの現場で行われていることをライヴ・ハウスという聴衆の前で再現し、 それを対決にしてしまおうというのである。ただ単にダブの対決を楽しむだけでなく、イベントは、先に述べたようなジャマイカが生み出した様々なクリエイ ティヴィティを凝縮した場になるはずだ。

オーバーヒートに所属していたミュート・ビートというバンドはエンジニアであるDub Master Xをメンバーの一員とする当時としては画期的なバンドだった。ミュート・ビートの89年、渋谷公会堂でのライヴを記憶の方は、Dub Master Xがステージ上にあがり、そこでミックスした姿を記憶されているかもしれない。今回は、それを一歩推し進め、2人のエンジニアの対決とするのだ。Dub Master Xとブルワッキーという2人の個性が、どのようにバンドを調理するのか実に楽しみだ。

今回の30周年企画は、ミュートとグラディ・アンダーソン、ローランド・アルフォンソ、オーガスタス・パブロ、リー・ペリー、キング・タビー…な ど、ミュージシャン達との新たな出会いを作り出し、レゲエという進化し続ける音楽と密接に関わってきたオーバーヒートによる、実にオーバーヒートらしいイ ベントだ。スタジオでのダブ・ミックスというやり直しがきくダブではなく、今回は生の演奏を素材にするという一発勝負。参加するミュージシャン達とエンジ ニア達がどのようなサイエンスを起こすかは、現場にいる人間しか体感し得ない。僕自身もそれを体感しに足を運ぶつもりだ。

バンドの演奏をダブ・エンジニアがミックスで競演(Clash)するという未聞のイヴェント。対決するのは日本のダブ・マスターXとニューヨークからブルワッキーことロイド・バーンズ。ロイドはシンガーとして来日しているが(チョーズン・ブラザーズとこだまさんの『レクイアム・ダブ』の発売記念ライヴ)、今回はエンジニアとしての来日となった。

ダブの俎上にのるバンドの出演メンバーはほとんどが知り合いの、日本を代表する手練れミュージシャン達だし、素晴らしいライヴになることは事前から織り込み済みだった。このライヴに先立って、twitter上で、オーバーヒートのECさんらと、ジャマイカのアーティストの招聘ではいろんなことありましたよね、笑える話も、ここでは話せない話もヤマほどあるなんて話をしていたら、ライヴ前日に衝撃の報が飛び込んできたのだった。

ロイド・バーンズか来られない!

というものだった。正確には前々日に乗っているはずの飛行機にロイドが乗っていないことが発覚し、ニューヨークの知人を通じてスタジオにいってもらった結果…以下は、ロイドのコメント(オーバーヒートのサイトから引用)

「月曜日にVISAの為の書類をピックアップしに並んでいたのだが、Wackie’s スタジオの隣のベーカリーのボイラーがガス爆発を起こし呼び戻されてしまった。現場に到着すると、幸い死人は出なかったが、警察とガス会社と消防署の事故 調査でビルの使用責任者として現場を離れられなくなってしまった。爆発のインパクトでスタジオにも被害があり、ドアも外れガスの供給も止まった零下になる スタジオに現在寝泊まりしている。それは機材の盗難防止の為だ。30thイヴェントに行けなくなり申し訳ない。本当に、本当に楽しみにしていたのに残念 だ。皆さん、申し訳ない」

ということに。

Dub Clashのクラッシュ相手、ダブ・マスター・Xは前日、DJでイヴェント参加のために鹿児島に小生と一緒にいた。明日のライヴがどうなるかなどもろもろ話しつつ、ライブの当日の朝、一緒に鹿児島より上京したのだった。

ライヴ会場となったLiquid ROOMでは、知り合いとも話しつつ(会場にはいたらしいけれども会えなかった知人も意外に多かった)、いろんなDJ達が場を暖めると言うよりはそれぞれに素晴らしいエンターテインメントとしてのDJを披露。バンド登場直前の佐川修さんのDJは素晴らしかった。ルーツ・レゲエのもっとも良質な部分をぎゅっと聴かせていただいた。きっと、後にバンドが演奏するであろうリズムの重複は避けた選曲になっていたのではなかっただろうか。

8時半、いや9時前頃だったろうか。バンドの登場。

バンド・メンバーは、Style Scott(ドラムス)、松永 孝義(ベース)、こだま 和文(トランペット)、朝本 浩文(キーボード)、エマーソン北村(キーボード)、松竹谷 清(ギター)、タツミ アキラ(アルトサックス)、The K(ギター)というメンバー。

松永さん、こだまさん、朝本さん、北村さんはミュートビートのメンバー。清さんはミュートのサポートしたこともあるし気心の知れたメンバー。タツミくんは言わずとしれたデタミネーションズの、The Kはリクル・マイちゃんの旦那さんにしてドライ&ヘヴィ、レゲエ・ディスコ・ロッカーズなどに参加してきた強者だ。

このバンドが演奏するのは基本的にレゲエの定番と言われる有名リズム。途中でH-Manやプシン、リクル・マイといったシンガー・ゲストも登場したが、基本はレゲエの定番リズムをインストで演奏するスタイル。これがもうかっこいいのなんのって。スタイル・スコットのプレイはルーツ・ラディックスやダブ・シンジケートでレコードでもライヴでも幾度となく聴いてきたから、いつもの素晴らしいプレイぶりに驚くことはなかった。ハイハットのニュアンスや安定したリズム・キープにはさすがとうなりつつ、何よりも素晴らしかったのが松永さんのプレイだ。そのベース弦を弾く、ひと弾きひと弾きが脳髄を直撃。松永さんのプレイは、スタイル・スコットのプレイよりも見慣れているはずなのに、それでもこの日のライヴでスタイルよりも松永さんのプレイに感動したのだ。スタイルの安定したドラムに寄り添いつつ、凶悪な(←ホメ言葉です)ベースが迫ってきたのです。本当に素晴らしかった。病気から復活されてのライヴだったと言うこともあり、少々感傷的になってうるうるきてしまう自分もいた。

朝本さんと北村さんという2人の鍵盤奏者が並んだのは実は初めてだったのではないだろうか。各人の役割分担も持ち味を生かしたものとなっていて素敵でした。そして、役割分担という意味ではThe K君と清さんの役割分担の妙も素晴らしかったのです。演奏家がそれぞれの個性をきちんと出しつつ、そしてバンドとしてまとまっている。リハが前日1日だけだったと誰が信じられるだろうか。

バンドを仕上げるダブ・ミキサー、ダブ・マスター・Xの仕事ぶりも素晴らしかった。バンドのスタート時点では少々派手目に、その後は抑制の効いた見事なダブを披露してくれました。学究肌のダブではなく、体感として気持ちよいダブの演出にうっとりとしたのです。あのミックスがなければ松永さんの凶悪なベースも魅力半減だったはずなのです。

バンドに続き、ロイドがこれなくなったために急遽参戦となったヤン富田さんのステージ。今回は、RIDDIM編集長大場君の脳波を音に変換させ、ビートと合わせて音世界を構築するというスタイル。これはもうヤンさんの芸術とも言う領域で、実はレゲエ・ファンの多くはポカーーン状態だったはずなのですが、みんな最後は引き込まれていたのです。前日のダブちゃん(ダブ・マスター・X)のDJ聴いて、このひのヤンさんのライヴ体験して、自分の中のGOGO熱が高まっちゃいましたけどねw

そして最後にバンドが再度登場し、ヤンさんもスティール・パンで加わり、大団円。

曲がないと言って、アンコールはなし。

終了は11時過ぎ。5時スタートからすると6時間声の長丁場。とても楽しいそして感動したライヴとなりました。当初目論んでいたスタイルとは違ったイベントとなったかもしれませんが、それはそれで良いじゃないですか。イベント自体もダブ・ミックスされちゃったと思えばね。そのダブ・ミックス最高でしたよ。制作されたオーバーヒートの皆さん、そして出演者、DJ、そして参加したお客さんみんなに感謝したくなるライヴでした。

 

One Response to Dub Clashのこと。

  1. […] Clash』については小生の過去のこれをご参考に。となると、こだま、GOTA、宮崎、増井が揃うのは2002年のKODAMA […]

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